坂本龍一ライブ (渋谷C.C.Lemonホール)

このうさんくさいレモン看板に見下ろされるのって、なんとも釈然としない気分になりますありがたいことにチケットを頂きまして、昨夜は坂本龍一さんのライブに行ってまいりました。場所は、いつの間にかその名前を渋谷C.C.Lemonホールに変えた渋谷公会堂です。というわけで、趣味丸出しの独りよがり観覧日記です。興味のない方には、ほんとすいません。

今回のライブは、生ピアノ担当の坂本龍一さんと電子音担当のカールステン・ニコライさんというドイツっぽい方のコラボレーションによるものです。YMOのニオイや、アジエンスのCMソングのキャッチーさは微塵もない、非常にアンビエント色の強い、かつ即興性の高いものでした。昨年12月に東京オペラシティで坂本さんを含めた5名による即興ライブが行われましたが、ジャンルとしてはあれに近いものでした。

坂本さんの奏でるピアノは、バッハのゴルトベルク変奏曲を極限まで音数を減らし、しかもドビュッシーが自分流にアレンジしてしまったような、とでもたとえれば良いでしょうか(無茶なたとえですいません)。「メロディを弾く」というよりも、「音を置いていく」といった感じのピアノです。静謐なる日本庭園にさりげなく配置された飛び石――。そんなイメージを彷彿とさせながらぽつりぽつりと置かれていく繊細なピアノ音は、音を出すことでむしろ静けさを際立たせているかのようでした。そのピアノを包みこむように、ニコライさんのノイズ的な電子音がパルスを刻みます。

ゆらぎ感まんまんとした呟きのようなピアノと、正確なパルスを刻む無機的な電子音とがあいまって、なんともいえない切ないロマンティシズムが漂います。もしもインダストリアルなノイズをサンプリングし、それで作ったループリズムの上に、えらく深いリバーブをかけたドビュッシーのピアノを乗せて聞いたりしたら、このライブから感じたのと同じ切ないロマンティシズムを感じられるような気がします。(なんか分かりづらいたとえばかりですいません)

この種の音楽は、こういったジャンルに興味のない人からしてみれば、「難解な現代音楽」として捉えられかねないかもしれません。そういった方たちにしてみれば、今日のライブは、八甲田山死の行軍的な眠気と戦わねばならなくなるに違いありません。実際、同行した同居人はわずか一曲目で、「天は我を見放した!」的な状態に陥っておりおりました(古いネタですいません)。ちなみに終演後の彼女、「ライブで眠っちゃっても損した気分にならないライブって、ある意味すんごく得したライブって感じだよね」などと、ポジティブなんだかヤケクソなんだかよく分からない感想を述べておりました。

話をライブ会場に戻します。場内のお客さんの中には、こういったタイプの音楽であることを想定していなかった方も多かったのではないでしょうか。演奏後の拍手にも、なんとなく戸惑った感がはらまれていた気がします。

演奏本編はおよそ1時間。MCは一切なし。演奏内容とも合致した、ある意味観客を突き放すような、非常に硬派なライブでした。そのせいか、アンコールを求める拍手は微妙にまばらでした。それでも2曲のアンコール演奏が行われました。自分たちの拍手によっての「引っ込んだ坂本さんが再び登場」というシチュエーションが、観客の方々にある種の高揚感というか演奏者との一体感みたいなものを覚えさせたのか、2度目のアンコール後は、場内割れんばかりの拍手が響き渡りました。すでに予定されていた曲はやりつくされていたらしく、みたび登場した坂本さんとニコライさんは、演奏をすることなく挨拶するだけにとどまりました。

ところが、ふたりが引っ込んだあともさらに拍手がつづき、うれしいことに3曲目のアンコールが実現。3曲目のアンコールに関しては、どうやら完全に即興だったらしく、メンバー2人はお互いに目配せをしあいながらの演奏開始。また、3曲目のアンコールが想定外であったことを裏付けるように、曲に合わせて映写されるビジュアルも、ここではありませんでした。スポットライトのみの演奏は、そのそっけなさが即興の緊張感をさらに高めてくれたような気がします。(なんて。もしかしたら、想定外と思わせるのも演出のうちで、そうとは知らずにぼくが喜んでいるだけなのかもしれませんが、それはそれでシアワセです)

ライブのリーフレットには、「別の境地に連れて行かれる感覚」という言葉で今回の音楽を表現しておりましたが、ぼくにはむしろ、普段自分が忘れていた自分の奥底にある静かな場所に引き戻されたような、そんななんともいえない落ち着きを覚えることができた音楽でした。

アンコールを含め、およそ1時間半で公演は終了。もうちょっと聞いていたかったなあ。不満といえばそのくらい。この2年間で行われた坂本龍一さんの4種類のライブ(バンドツアー、ピアノソロライブ、東京オペラシティ即興ライブ、そして今回のライブ)の中では、ぼくにとってもっとも満足度の高いライブでした。

それにしても、率直に言って商業ベースには乗りづらいこのような音楽を、会場のこんなでかいスピーカーで聴くことができるなんて。帰宅するなりこの2人組のCDを自宅のスピーカーで聴いてみたところ、今日のライブのお得感が一段と実感できたのでありました。

【 2006/10/29 】
| カルビ以外 | コメント(6) | トラックバック(4) |

<<ハッピーウェディング・ラヴァーズロック・バンド | ホーム | ロハスな思い出>>

コメントありがとうございました。

僕も同居人を連れて行ってたんですが、開演前に「気持ち良過ぎて寝ちゃうかも」と言っておきながら、開演中はたびたび「すごいね」と声をかけてくるし、終演後も躁状態になって喋りまくってました。
ほんと、人それぞれ、評価の分かれるコンサートだったようですね(笑)。

いやあそれにしても三度目のアンコールがあったなんて……不覚(泣)。
【2006/10/29 23:59】
| URL | 石黒 #- [ 編集 ] |


石黒さま、こんにちは。

ほんとに千差万別の反応ですね。でも、あのライブで一番楽しめたのは石黒さんの同居人さんタイプなお客さんだったかもしれないなあ、なんて思いました。
おそらく石黒さんやぼくみたいな人は、「予想」の範囲内(あるいは延長線上)で楽しめていて、ウチの同居人は「予想どおり」安らかな気分(笑)を味わえて、けれど石黒さんの同居人さんは、いい意味で「予想を裏切られた」楽しさを味わえたんですよね。

色々な人がいるけど、自分と違う反応をする人と接することができるのは、ほんと楽しいですね。
【2006/10/30 09:21】
| URL | マサヨシマサシ #- [ 編集 ] |


はじめまして。自分は10月29日のライヴに行きました。最低なライヴでした。映像は新鮮みに欠け、音楽は雑音にしか聞こえませんでした。今の坂本さんは、こんな音楽しか作れないのか?と思いました。それでもお客さんは拍手をしていて、なぜするのか理解できませんでした。ファンのなであれば、社交辞令みたいに拍手するにでは無く、良くなければ良くないと意思表示すべきだと思いました。坂本さんもプロなのであれば、ライヴに来たお客さんを満足させなければ行けないと思いました。一体、何人のお客さんが満足できたのだろう?(かなりの客層だったので。)せめて、アンコールだけでも昔の名曲をやるべきだと思いいました。それを聞きに来たお客さんも沢山いただろうに。ほんとに残念です。
【2006/10/30 21:37】
| URL | 私の中の「坂本龍一」は死んだ #- [ 編集 ] |


私の中の「坂本龍一」は死んださま、はじめまして。って、なんか書くことがはばかられるコワイ名前なので、すいません、私の中のさまと呼ばせてください。

私の中のさまは、ライブを楽しめなかったのですね。ぼくは逆にすごく楽しかったので、なんか申し訳ないです。

そしてぼくは、あのユニットのCDを所有していて、あのユニットならではの音楽を聴きたいと思っていたものですから、むしろ昔の曲をやらなかったことがうれしく感じてしまったものでした。なんだかこのことも私の中のさまに申し訳なく思えてしまいました。すいません。

すいませんばっかりのレスですいませんが、なんかほんとにすいません。
【2006/10/30 23:27】
| URL | マサヨシマサシ #- [ 編集 ] |


僕はそのサカモトのライブを見たり聞いたりしていないから何とも言えないけど、客席からは拍手があった訳でしょ? それだったら難解でも不可解でも無いと思う。彼は過去に、確率統計音楽とかやってたけど、そこまで極端に退屈な内容ではなかったと思うよ。
【2006/12/05 13:01】
| URL | 電気羊肉 #- [ 編集 ] |


電気羊肉さま、はじめまして。

>彼は過去に、確率統計音楽とかやってたけど、

以前、所有者いわく「そのときの試行錯誤段階のテープ」なるものを聞かせてもらったことがありました。確かに難解、というか、音楽っぽくない音楽だったような記憶があります。

あれに比べると今回のライブって相当音楽的ですよね。

ニコライさんとの共演は昨年も4人組による東京オペラシティでの即興のライブを聴きましたが、今回のデュオによるものの方がこうしたジャンルになじみのない方にとってははるかに聴きやすかったと思います。

おそらく「私の中の〜」さんは違うタイプの音楽を期待していて、その期待が大きすぎたためにあのようなコメントを書かれたんだと思います。だって、たとえば八百屋さんで買い物をしたときに、よっぽどの期待がなければ、「私の中でこの八百屋は死んだ」なんて言わないと思うんです。その期待値の高さは、やっぱりファンならではというか。

方向はともかく、こんな風に絶対値の大きな感想を抱かせちゃう坂本さんって、ほんとすごいですね。
【2006/12/05 20:35】
| URL | マサヨシマサシ #- [ 編集 ] |

コメント上等!












(マサヨシマサシにだけ内緒で読ませちゃう)


トラックバック上等!

トラックバックURL
http://fumieda.dtiblog.com/tb.php/42-dd39fd9c
-
管理人の承認後に表示されます 【2013/08/18 03:38】
-
管理人の承認後に表示されます 【2013/08/17 23:12】
気持ちイイ
坂本教授とアルヴァノト(カールステン・ニコライ)さんのコラボライブに行って来ました。in C.C.レモンホール。いつの間にか渋谷公会堂がC.C.レモンホールに。今はやり?のネーミングライツというやつですな。内容はと言いますとアルヴァノトさんが映像とミキサーを担... rossi journal【2006/10/31 22:18】
alva noto + ryuichi sakamoto at 渋谷 C.C.Lemon ホール (Tokyo)
今日は渋谷 C.C.Lemon ホール(元・渋公ね)に、alva noto + ryuichi sakamotoを観に行ってきました。傑作アルバム「Insen」の名を冠したこのツアー、ついに日本公演、ということで喜び勇んで(違和感が拭いきれないレモ 池谷石黒ウェブログ【2006/10/29 23:59】
<<ハッピーウェディング・ラヴァーズロック・バンド | ホーム | ロハスな思い出>>